はやし浩司

生活指導
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子どもに必要な家庭像

叱って伸ばせ、子どもの心

「別冊PHP」 (1998年9月号特集記事より転載)

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子どもに必要な家庭像

     幼児教育家   はやし浩司

子どもを尊敬し、子どもに尊敬される……

 子どもの豊かな心は、絶対的な安心感の中ではぐくまれます。ここで「絶対的」というのは、
「疑うことのない」という意味です。自分は守られているのだ、自分は愛されているのだという安
心感のことですが、この安心感があってはじめて、子どもの心はまっすぐに伸びます。やさしさ
や人を思いやる心も、そこから生まれます。反対にこの安心感がぐらつくと、子どもの心もぐら
つきます。特に親の愛が切れるのを感ずると、子どもの心は確実にゆがみます。

 そんなわけで、家庭のあるべき第一の条件は、まず子どもが安心できる場所であるというこ
と。子どもを叱るときも、いつもその底流に、親子の太いきずなや、親の愛があることをわから
せるようにして、子どもを叱ります。決して子どもを、家庭の外へ突き放したり、この安心感を
疑わせるようなことはしてはいけません。

 次につまるところ、子育てというのは、子どもを常識ある、心豊かな家庭人に自立させること
です。そのためには、子どもを自由にします。自由というのは、もともと「自(みずから)に由
(よ)る」という意味です。自分で考えさせ、自分で行動させ、自分で責任をとらせるということで
す。子どもを叱るときも、トコトン最後まで、追いつめるのではなく、子どもが自分で考えるのを
しむけながら、叱るのを一歩その手前でやめるのがコツです。ガミガミと言えば言うほど、子ど
もは自分で考えることができなくなり、自分で判断できない子どもになってしまいます。その結
果、子どもは常識はずれな行為をしやすくなります。

 なおイギリスの哲学者でもあり、ノーベル文学賞受賞者でもある、バートランド・ラッセルは、
次のように言っています。

 「子どもを尊敬し、子どもから尊敬され、必要なことはするけれども、決して限度を超えないこ
とを知っている両親のみが、真の家族の喜びを与えられる」と。

 私はこの言葉の中に、子どもの叱り方も含めて、家庭教育のすべてが凝縮されているように
思います。

★お父さんの役割・叱り方

ポイント1……叱り方を教えるつもりで

 子どもを叱るときは、子どもに子ども(あなたから見れば孫)の叱り方を教えるつもりで、叱り
ます。「お前が親になったら、こういうふうに子どもを叱るのだよ」と、です。

 あなたの子どももいつか、おとなになります。おとなになって、親になります。そして今、あなた
から受けている子育てをそっくりそのまま繰りかえします。子育てというのは、そういうもので
す。もしあなたが子どもを叱りながら、その向こうにもう一人の子ども(孫)を見ることができた
ら、おのずとあなたの叱り方も変わってくるはずです。

 なお子どもを叱るときは、「これが子育て!」と、心して叱ります。まさに親として腕のみせどこ
ろ。感情をそのままぶつけるような叱り方をするようであれば、あなたは親として、まだ未熟(失
礼!)ということになります。


ポイント2……上下意識は禁物

 日本人ほど、上下意識の強い国民はいません。先輩・後輩という言葉に代表される上下意
識ですが、たとえば夫が上で妻が下、親が上で子が下、男が上で女が下というわけです。しか
しこの上下意識(親意識)が強ければ強いほど、あなたは命令口調になり、子どもに従属を求
めることになります。こういう関係で、なごやかな親子関係など育つはずもありません。今は小
さな亀裂かもしれませんが、やがて親子断絶!、ということにもなりかねません。注意します。
もしあなたが「親に向かって、何てこと言うのだ!」というような言葉を日常的に口にしているよ
うであれば、あなたと子どもの関係は、かなり危険な状態にあると判断してよいでしょう。


ポイント3……叱っても威圧しない

 言うべきことは言っても、威圧は禁物。「威圧で閉じる子どもの耳」と覚えておきます。
 威圧すれば、子どもは一応しおらしい態度をし、一見反省しているかのような様子を見せま
すが、それはあくまでもフリ。頭の中は思考停止状態とみます。つまり叱る割には、その効果
はないということです。
 
 コツは、叱りながらも、子ども自身に考えさせることです。言うべきことは言いながらも、あと
は時を待ちます。


ポイント4……まず子どもを信ずる

 子どもは自分を信じてくれる人の前では、よりよい自分を演出してみせようとします。そういう
子どもの特性を利用して、子どもを伸ばします。叱るときも、そうです。「あなたがこんなことを
するhずはないのだけれども、おかしいわね」という前提で、子どもを叱ります。「やっぱりお前
は、ダメな子だ!」式の叱り方は、タブー中のタブーです。こういう叱り方が日常化すると、子ど
もは自信をなくしたり、ものの考え方が卑屈にんったりします。


ポイント5……逃げ場を大切に

 どんな動物にも、最後の逃げ場というものがあります。子どもにもその逃げ場がありますか
ら、子どもを叱るにしても、その逃げ場まで子どもを追いつめて、そこで子どもを叱るようなこと
はしてはいけません。

 叱るにしても、逃げ場の外で。そして叱られたあと、子どもがその逃げ場に入ったら、そっとし
ておいてあげます。子どもはその逃げ場で、自分の心をいやしたり、反省したりします。

 この逃げ場を親が平気で踏み荒らすようなことをすると、最悪の場合には、家出ということに
もなりかねません。逃げ場がなくて、犬小屋に隠れていた子どもがいました。屋根から飛び降り
た子どももいました。そういう様子があれば、叱り方をかなり反省します。


★お母さんの役割・叱り方

ポイント1……お父さんをたてる

 お母さんの第一の役割は、「父親をたてる」です。こう書くと、「男尊女卑思想だ!」と騒ぐ人
がいますが、お父さんの第一の役割も、「お母さんをたてる」です。つまり互いに高度な立場
で、相手を尊敬しあうことこそ、家庭をまとめる秘訣ということになります。「あなたのお父さん
は、尊敬されているわ」とか、「お父さんの仕事は、すばらしい仕事なのよ」とか。そのつど、子
どもに言って聞かせます。

 子どもを叱るときも同じ。仮に意見の不一致があっても、子どもの前では父親をたてます。
「お父さんがそう言っているのだから、そうしなさい」と、です。互いの意見調整は、あとで、子ど
ものいないところでします。そうでなくても、難しいのが子育てです。夫婦の意見が対立してい
て、これから先、どうして子育てができるというのでしょうか。


ポイント2……親の情緒不安は、百害のもと

 叱るときは際限なく、怒りに任せて叱る人がいます。ギャーギャーと混乱状態になる人もいま
す。脳の抑制命令のきかない人とみます。もしあなたがそうであれば、あなたは子どもを叱る
前に、あなた自身の情緒不安と戦わねばなりません。できれば子どもを叱りそうになったら、そ
の場から離れることです。離れて、一度、自分自身を冷静に見つめる時間をとります。でないと
……。あなたの叱り方が原因で、子どもの心がゆがんでしまうことにも、なりかねません。

 たった一度、強く叱られたのが原因で、一人二役のひとり言を言うようになってしまった女の
子(三歳児)がいます。子どもが小さいうちほど、深刻な影響を与えますから、注します。


ポイント3……過去をもちださない

 子どもをを叱るとしても、その場だけにとどめます。あるいは一日ですませます。決して過去
を持ちださないこと。もしあなたが子どもを叱るたびに、「いつになったら!」とか、「まだわから
ないの!」と言うようであれば、不安先行型の子育てになっていないかを反省します。「うちの
子はいい子だ」という、前向きの自信が子どもを伸ばしますが、反対にわがかまり(不安)があ
ると、そのつどそのわだかまりが顔をだして、子育てそのものをゆがめます。子どもからも、ハ
ツラツとした明るい表情が消えます。


ポイント4……脅しは禁物

 よく子どもを叱るとき、「あんたなんか、捨ててしまうからね」とか、「家から出ていきなさい」と
言う人がいます。親としては脅しのつもりでそう言うのですが、子どもにはそれがわかりませ
ん。わからないから、その恐怖感から、子どもはますます大声で泣きわめくわけですが、こうい
う脅しが日常化すると、子どもから善悪のバランス感覚がなくなります。わかりやすく言えば、
常識ハズレの子どもになりやすいということ。

 体罰についても、同じ。五、六歳児をもつ親の50%弱が、子どもに何らかの体罰を与えてい
ることがわかっています。お尻のひっぱたたきが多いですが、手や頭を叩く、ゲンコツ、チビク
リ、グリグリなどがあります。

 しかし子どもが恐怖心を覚えるような体罰は厳禁。体罰としての意味がないばかりか、子ども
の心にキズをつけることにもなりかねません。


ポイント5……最後は、「許して忘れる」

 子どもは叱っても、最後は、許して忘れます。英語では、「FORGIVE & FORGET」と言いま
す。フォ・ギブ(許す)は、「与えるため」とも訳せます。またフォ・ゲッツ(忘れる)は、「得るため」
とも訳せます。聖書の中の言葉だそうですが、つまり子どもを愛するということは、「子どもに愛
を与えるために子どもを許し、子どもから愛を得るために子どもを忘れる」ということになりま
す。

 つまるところ、子育てはこの「許して忘れる」の連続。人は子どもを産むことで親になります
が、子どもを愛し、子どもを信ずることは難しい。大半の親は長くて曲がりくねった道を歩みな
がら、その真の親にたどりつきます。で、その真の親であるかないかは、どこまで深く子どもを
愛するかで決まるのではないでしょか。子どもを叱りそうになったら、あるいは叱ったら、すかさ
ずこの言葉を思い出してみてください。心が軽くなるはずです。